3気筒をやめて4気筒に統一するトヨタ 勝ち続ける理由
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3気筒をやめて4気筒に統一するトヨタ 勝ち続ける理由
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00:00 オープニング
02:04 エンジンの黄金律:なぜ「1.5L・3気筒」が最高効率だったのか?
03:30 異例のショートストローク化:あえて熱効率を手放した理由
05:01 ボンネットを下げる空力革命:車両トータルで燃費を稼ぐ発想
06:54 製造現場を変える「新世代4気筒・2系統」への集約計画
09:29 クランクシャフト加工ラインの統一が生む投資効率
11:55 巨額固定費を削り落とす「鋳造金型」の削減効果
12:51 元町工場の混流ラインと「アンダーボディ合体」の進化
15:06 カイゼン神話の裏側:原価と利益は「設計図」で決まる
17:43 トヨタの絶対哲学:「売値-利益=原価」の厳しい掟
21:09 Appleのファブレスと共通する「現場を支配する仕様書」
24:18 ドイツ二大巨頭の明暗:VWが陥ったEV専用工場の罠
28:51 BMWのしたたかさ:混流生産を守り抜いた技術中立性
30:30 マルチパスウェイの真髄:どんな時代でも利益を出すトヨタの凄み
32:00 エンディング
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3気筒をやめて4気筒に統一するトヨタ 勝ち続ける理由
【第1章】なぜ3気筒をやめるのか? 異例のショートストローク化と空力革命
ここ数年、世界中のニュースを見渡すと、まるでガソリンエンジンが過去の遺物になったかのような論調が続いていました。
「これからは電気自動車、いわゆるバッテリーEVの時代であり、内燃機関にはもう未来がない」――そうした空気が、自動車業界全体を覆っていた時期があったのは、皆さんも記憶に新しいところだと思います。
しかし、2024年5月28日。
トヨタ、スバル、マツダの3社が合同で開催した「マルチパスウェイ ワークショップ」において、トヨタは世界を驚かせる発表を行いました。
それは、これまで世の中に存在しなかったまったく新しい直列4気筒エンジンを新開発したという宣言でした。
トヨタのコンパクトカー、たとえば現行のヤリスやヤリスクロスなどを思い浮かべてみてください。
これらの車には現在、排気量1.5リッターの「直列3気筒エンジン」が搭載されています。
これまでトヨタは、「これからのコンパクトカーには3気筒こそが最高の効率をもたらす」として、莫大な投資を行い、この3気筒エンジンを世界中で展開してきました。
それにもかかわらず、トヨタは次世代のモデルに向けて、再び気筒数をひとつ増やし、「4気筒エンジン」へと舵を切ることを明らかにしたのです。
なぜ、一度は3気筒へと進んだトヨタが、あえて4気筒へ戻るのでしょうか。
過去への逆戻りでしょうか。それとも、これまでの3気筒が失敗だったということでしょうか。
結論から言えば、それは失敗でも後退でもありません。
これまでの内燃機関の常識を覆す、冷徹なエンジニアリングの計算と、設計思想の劇的な転換がそこにはありました。
4気筒への転換を正しく理解するためには、まず、「なぜそもそも3気筒だったのか」
という、これまでトヨタが主張してきたエンジンの基本的な物理法則からお話しする必要があります。
自動車の内燃機関の世界には、長年の研究によって導き出された、ひとつの黄金律が存在します。
それは、
「ガソリンエンジンは、シリンダーひとつあたりの排気量が400ccから500cc前後のとき、最も熱効率が高くなる」
という物理的な事実です。
もし、排気量1.5リッターのエンジンを作ろうとした場合、この黄金律に当てはめると、500ccの部屋を3つ並べた「3気筒」にするのが、計算上、最も効率が良くなります。
気筒の数を4つから3つに減らすと、ピストンやバルブ、それを動かす金属部品の数が劇的に減ります。部品が減れば、金属同士が擦れ合う抵抗、いわゆる「フリクションロス」を大幅に削り落とすことができます。
さらに、燃焼室の内壁の表面積も小さくなるため、ガソリンが爆発した瞬間の貴重な熱が外へ逃げてしまう「冷却損失」も最小限に抑えることができます。
トヨタはこれを突き詰めるため、ピストンが上下に動く距離を長く取った「ロングストローク設計」を採用し、40パーセントを超えるという世界最高峰の熱効率を誇る「ダイナミックフォースエンジン」を完成させました。
当時のエンジニアリングの視点から見れば、1.5リッターの3気筒は、間違いなく「世界で最も研ぎ澄まされた最適解」でした。
ところが、今回トヨタが発表した新しい直列4気筒エンジンは、この自らが築き上げた「正解」を、真っ向から覆すかのような設計になっています。
新しい直列4気筒エンジンは、あえて「ショートストローク化」に踏み切っています。
近年の省燃費エンジンがこぞって採用してきたロングストロークをやめ、ピストンの上下運動の幅を短く設計し直しました。
ショートストロークにすれば、エンジン単体としての熱効率の数字は、理論上わずかに落ちてしまいます。
エンジニアにとって、命を削って積み上げてきた熱効率の数値を自ら手放すなど、本来であれば考えられない選択でした。
では、なぜ彼らはその選択をあえて選んだのでしょうか。
理由はただひとつ、
「エンジンの背丈、つまり全高を極限まで低くするため」
でした。
トヨタが公式に発表した数値を整理してみます。
現行の1.5リッター直列3気筒エンジンと比較して、新開発された1.5リッター直列4気筒の自然吸気エンジンは、体積でおよそ10パーセント、そして全高(エンジンの高さ)においても約10パーセントの小型化を達成しています。
さらに、従来の2.5リッター自然吸気エンジンに匹敵するパワーを持つ、新開発の「1.5リッター直列4気筒ターボ」に至っては、体積を20パーセント、全高を15パーセントも削り落としました。
そして、上級モデルやスポーツモデルを担う、新開発の「2.0リッター直列4気筒ターボ」も、現行の2.4リッターターボに比べて体積・全高ともに10パーセントの低減を実現しています。
エンジンの背が低くなる。
この事実が、クルマという製品全体にどれほど劇的な変化をもたらすか、想像がつくでしょうか。
現代の自動車には、世界中で極めて厳しい「歩行者保護基準」という法規が課されています。万が一、歩行者と接触した際に頭部への衝撃を吸収できるよう、エンジンの最も硬い金属部分と、ボンネットフードの鉄板との間には、数センチメートルの空間を空けるよう、法律で決まっています。
つまり、エンジンの背が高い限り、デザイナーや空力設計者がどれだけ「フロントノーズを低くしたい」と願っても、物理的にボンネットを下げることは不可能でした。
しかし、エンジンの全高が10パーセントから15パーセントも低くなれば、そのぶんボンネットフードを大きく下げることができます。
フロントが低く尖った形状になれば、走行中にクルマが受ける空気の壁、すなわち前面投影面積と空気抵抗係数(Cd値)が劇的に減少します。
トヨタの開発陣は、この効果について極めて重要な数値を公表しています。
ショートストローク化によってエンジン単体の効率が多少犠牲になったとしても、ボンネットを低くして車体全体の空気抵抗を減らすことによって、エンジン単体ではなく車両全体としての実燃費は、最大で約8パーセントから12パーセント改善するという試算を明らかにしたのです。
これまで自動車業界は、エンジン単体での熱効率のパーセンテージを、0.1パーセント刻みで競い合ってきました。
しかしトヨタは、その狭い視野から完全に脱却しました。
「エンジン単体の数字が世界一であっても意味がない。クルマという物体が全体として風を切り、道路の上を走ったときに、トータルで最も燃料を使わない形こそが真の最適解である」――。
これこそが、トヨタが従来の3気筒をやめて、あえて背の低い4気筒へと舵を切った、エンジニアリングにおける第一の理由です。
トヨタ,4気筒エンジン,