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なぜ「愛されること」が苦痛になる人がいるのか【愛着理論×比較生理学】

考えすぎる葦

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なぜ「愛されること」が苦痛になる人がいるのか【愛着理論×比較生理学】

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殻に籠った人間は、本当に不幸なのだろうか。少しも苦しんではいないのだろうか──。 LINEに溜まった「999+」を何日も放置し、こちらが内面に干渉しようとすれば拒絶する。世間はそんな人を「傷つくのが怖い人」つまり「回避型」などと呼ぶ。けれど奇妙なのは、当の本人がそれほど困っているようには見えないことだ。誰かに助けを求めるでもなく、孤独を嘆くでもなく、むしろ一人になった途端に落ち着きを取り戻していく。 実際、1991年の自尊心を測る検査では、人を信じて健やかな関係を築く「安定型」の平均点が35.28だったのに対し、「回避型」は36.50。人間関係に問題を抱えているはずの人々の方が、自分自身を高く評価していた。 では、あの沈黙を貫く人々は本当に「平気」なのだろうか。 70年以上前のロンドンでは、入院中に泣かなくなった2歳の少女を見て大人たちは「ようやく落ち着いた」と安心した。ところが精神科医ジョン・ボウルビィたちはその静けさを回復とは考えなかった。声を上げても誰も来ないなら、声を上げない方が生き物としては合理的だからだ。 そして奇妙なことに、潮の引いた干潟で殻を閉じる二枚貝にもこれとよく似た仕組みがある。一度殻を締めれば、それを閉じ続けるためのエネルギーはごくわずかで済む。殻を閉じている状態は、驚くほどコスパが良い。だから内側の酸素が減り、内部が酸性に傾き、じゅくじゅくとその身を焼かれようがそう簡単には開かない。 ただし殻を閉じているあいだ、貝は一ミリも育たないのだが──。 人間の心にも、これと似た「掛け金」があるのだとしたら。愛情や善意はその殻を開く鍵になるのか。それとも、さらにその外殻を強固なものへと変える外圧になるのか。 今回は「なぜ愛されることが苦痛になる人がいるのか」を、愛着理論と二枚貝の生理から考えすぎてみました。 ---------------------------- ▼タイムスタンプ 00:00 - Prologue:999+の堆積 01:30 - Chapter 1:悩みのないカルテ 04:40 - Chapter 2:皮膚の下のパニック 09:55 - Chapter 3:ラッチの解除と安すぎる自衛 13:07 - Chapter 4:へその緒から続く孤立 15:17 - Chapter 5:血流が戻る閾値 20:50 - Epilogue:みんな貝になりたい ---------------------------- ▼参考文献・データ出典 [1] Bowlby, J. (1969/1982). *Attachment and Loss, Vol.1: Attachment*. Basic Books.(「内的作業モデル(internal working model)」=自分は大事にされる値打ちがあるか/他人は助けに来てくれるか、という二つの予測を幼少期に脳内へ構築するという理論の原典) [2] Bowlby, J. (1960). "Separation anxiety: A critical review of the literature." *Journal of Child Psychology and Psychiatry*, 1(4), 251-269. j.1469-7610.1960.tb01999.x(親から引き離された子どもがたどる「抗議(protest)→絶望(despair)→脱愛着(detachment)」の3段階を、ボウルビィ自身が公刊論文で定式化したもの) [3] Robertson, J. (1952). A Two-Year-Old Goes to Hospital [Film]. Tavistock Clinic, London. (本編に登場する2歳の少女「ローラ」の8日間の入院を記録した映画。撮影1951〜52年。当時の病院では親の面会が厳しく制限されており、この記録が英国の小児病棟の面会規則を変える契機になった) [4] Bartholomew, K., & Horowitz, L. M. (1991). "Attachment styles among young adults: A test of a four-category model." *Journal of Personality and Social Psychology*, 61(2), 226-244.(本編の「35.28」「36.50」の出典。自己観×他者観の二軸で愛着を4分類したうえで自尊心を測り、安定型より拒絶回避型のほうが自己評価が高いことを示した。) [5] Sroufe, L. A., & Waters, E. (1977). "Heart rate as a convergent measure in clinical and developmental research." *Merrill-Palmer Quarterly*, 23(1), 3-27.(母子の分離・再会場面で乳児の心拍を測定。回避型の乳児は母親が戻っても平然と玩具で遊び続ける一方、心拍の上昇は再会後も下がらなかった) [6] Dozier, M., & Kobak, R. R. (1992). "Psychophysiology in attachment interviews: Converging evidence for deactivating strategies." *Child Development*, 63(6), 1473-1480.x(大学生50名。幼少期の分離・拒絶の記憶を語らせながら皮膚電気反応を測ると、「頼る必要などない」と語る脱活性化戦略の者ほど発汗が上がった) [7] Waters, E., Merrick, S., Treboux, D., Crowell, J., & Albersheim, L. (2000). "Attachment security in infancy and early adulthood: A twenty-year longitudinal study." *Child Development*, 71(3), 684-689.(生後12か月で測定した愛着を20年後に再測定。72%が同じ分類にとどまり、28%が入れ替わった。親の離婚・重い病気・近親者の死などを経験した群では変化率44%(8/18)、経験しなかった群では22%(7/32)) [8] van IJzendoorn, M. H., & Kroonenberg, P. M. (1988). "Cross-cultural patterns of attachment: A meta-analysis of the strange situation." *Child Development*, 59(1), 147-156. (ストレンジ・シチュエーション法の国際比較メタ分析。回避型の比率が育児文化によって大きく違うことを示した) [9] 二枚貝のキャッチ収縮(catch contraction)について: Mechanism and function of the catch state in molluscan smooth muscle. *International Journal of Molecular Sciences*, 21(22), 8586 (2020). (貝柱が一度締まると、ほとんどエネルギーを使わずに長時間その張力を保ち続ける仕組み。本編の「掛け金(ラッチ)」の正体) [10] de Zwaan, A., & Wijsman, T. C. M. (1976). "Anaerobic metabolism in Bivalvia (Mollusca)." *Comparative Biochemistry and Physiology Part B*, 54(3), 313-323.(殻を閉じた貝が無酸素代謝へ切り替わり、老廃物の蓄積とともに体液のpHが下がっていくこと) [11] Yellon, D. M., et al. (2024). "Reperfusion injury in patients with acute myocardial infarction: JACC scientific statement." *Journal of the American College of Cardiology*.(再灌流傷害=虚血に陥った組織へ血流を再開させた、まさにその瞬間に組織の破壊が進む現象) [12] Bretaña, I., Alonso-Arbiol, I., Recio, P., & Molero, F. (2022). "Avoidant attachment, withdrawal-aggression conflict pattern, and relationship satisfaction: A mediational dyadic model." *Current Psychology*, 41, 2248-2261. (回避傾向が強い人ほど対立場面で「撤退」を選び、その撤退がパートナー側の「要求」を攻撃的な形へ増幅させること) [13] Overall, N. C., Simpson, J. A., & Struthers, H. (2013). "Buffering attachment-related avoidance: Softening emotional and behavioral defenses during conflict discussions." *Journal of Personality and Social Psychology*, 104(5), 854-871. (本編終盤の「自律性の支援」の根拠。要求そのものは変えず、決定権を相手に残し相手の視点を認め、価値づける関わり方をしたときにだけ回避型の怒りと退避行動が和らいだ。) [14] 国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』(2021年調査/2023年報告). ※本動画は上記の研究・文献・公表データをもとにした考察です。数値は調査主体・定義・年度により差が出る場合があり、解釈に議論のある知見も含まれます。 ※「回避型」は医学的な診断名ではなく、発達心理学における研究上の分類です。特定の個人を病理化したり、性格を断定したりする意図はありません。 ※二枚貝の生理と人間の心理を並べているのは構造の類比であって、両者が同一の機構で動いているという主張ではありません。 ※本編が扱っているのは「閉じることと開けることにかかる費用の非対称」という構造であり、個人の善悪ではありません。 ※孤独や対人関係の苦しさを感じている方は、一人で抱え込まず公的な相談窓口や医療機関にご相談ください。 ---------------------------- ▼音源素材 効果音ラボ https://soundeffect-lab.info/ DOVA-SYNDROME https://dova-s.jp/ #愛着理論 #回避型 #愛着スタイル #発達心理学 #心理学 #脱愛着 #二枚貝 #自律性の支援 #考察 #雑学 #解説 #心理学 #考えすぎる葦