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質量の正体|あなたの体重の99%は、物質ではない

学びたい大人のための大学

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質量の正体|あなたの体重の99%は、物質ではない

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体重計に乗ると、針が六十を指します。この六十キログラムは、原子が集まってできている。そう習いました。では、あなたを作っている粒を、ひとつ残らず集めて重さを足してみます。 答えは、六百グラムです。 六十キログラムのうち、粒そのものの重さは六百グラムしかありません。残りの五十九キログラムと四百グラムは、どの粒の重さでもない。それは、あなたの中で走りまわっているものが、外へ出られないでいる、その勢いです。 この動画は「重さとは何の量なのか」という一本の線でできています。まず、重さと質量を切り分けます。体重計が測っていたのは、あなたが床を押す力でした。エレベーターで変わり、宇宙では消えます。消えなかったほう——動かしにくさ——が質量です。 次に、部品を足します。陽子の中にはクォークが三つ。アップが二・一六、ダウンが四・六七メガ電子ボルト。足すと約九。ところが陽子は九三八・二七二。中身の合計は、全体の一パーセントにも届きません。 そこで引き算をします。部品をくっつけると、全体は合計より軽くなる。太陽はその〇・七五パーセントを、毎秒四百二十六万トンずつ光に変えています。エネルギーを出せば軽くなる。ならば、閉じ込めれば重くなるはずです。 鏡の箱に光を閉じ込めます。光の質量はゼロ。それでも箱は重くなり、押すと動きにくくなります。同じ向きに走らせた光子二つの質量はゼロ。反対向きにすると、質量が生まれます。中では動いていて、全体としてはどこへも行かない。そのときだけ、重さが現れます。 これが、この動画の芯です。質量とは、ものの量ではありません。中で動きまわっているものが、外へ出られなくなった状態につけられた名前です。 そして最後の一パーセントが、ヒッグスでした。よく言われる「水あめのようなもので、進むと抵抗を受けて遅くなる」は間違いです。電子はいまも光の速さで走っています。ただ、左巻きと右巻きが入れ替わるたびに進む向きが折り返して、前へ進めないでいる。その足踏みが、重さでした。 その仕組みが世に出たきっかけは、一本の却下でした。 ■ この動画で分かること ・体重計が測っているのは「あなたが床を押す力」。重さは場所で変わり、質量は変わらない ・あなたは重力を感じていない。感じているのは床が押し返す力(落ちているあいだ、人は何も感じない) ・陽子の中のクォークの重さを全部足しても、陽子の重さの0.96パーセント ・体重60kgのうち、粒そのものの重さは約593グラム(クォーク575g+電子18g) ・部品をくっつけると軽くなる。陽子+中性子=1877.838、重陽子=1875.613(差2.225) ・ヘリウムの核は部品の合計より0.75%軽い。太陽は毎秒426万トン軽くなっている ・化学反応でも質量は減っている。メタン1モルを燃やすと9.9ナノグラム(測れないだけ) ・E=mc²は「変換の式」ではない。質量とエネルギーははじめから同じもの ・質量ゼロの光子を二つ、反対向きに走らせると、系に質量が生まれる ・1ジュールの光を閉じ込めた鏡の箱は、約11フェムトグラム重くなり、慣性も増える ・陽子の中身は三つではない。運動量のおよそ半分は、質量ゼロのグルーオンが持っている ・グルーオン自身が「色」を持つので、力の線が束になり、離しても弱くならない ・引き離すと途中で新しい対が生まれる。クォークを一個だけ取り出した人は、いまだにいない ・閉じ込めは実験では毎日確かめられているが、数学としては証明されていない(未解決問題) ・不確定性原理だけで見積もる:197.327 ÷ 0.8409 = 234.7 MeV。三つで704。実際は938(けたが合う) ・クォークの重さを一度も使わずに、陽子の重さのけたが出る ・2008年、三つの数字だけを入力して、計算機の中で陽子の質量が出た(格子QCD) ・2018年の内訳:クォークの質量項9%/クォークの運動エネルギー32%/グルーオンの場36%/トレースアノマリー23% ・体重の四分の一近くは「量子力学が対称性を勝手に壊した分」 ・標準模型では、すべての粒の質量はゼロでなければならない(手で書き込むと理論が壊れる) ・質量があるとは「左巻きと右巻きが入れ替わりつづけている」ということ ・ヒッグスの場は水あめではない。電子は減速していない。まっすぐ進めなくなっただけ ・ヒッグスの場の濃さ 246.22 GeV は、ミューオンの寿命から自分で出せる ・トップクォークだけが、ちょうど1の強さで結ばれている(理由は分かっていない) ・電子とトップの差は33万倍。なぜそんなに散らばっているのかも分かっていない ・1964年7月31日、ヒッグスの二本目の論文は却下された。編集部は当時のCERNにあった ・彼は「私は憤慨した」と書き残し、腹立ちまぎれに数段落を書き足して別の雑誌へ送り直した ・その書き足した中の一文だけが、のちに「ヒッグス粒子」と呼ばれる粒への最初で唯一の言及 ・却下されなければ、その一文は書かれなかった。48年後、世界最大の機械がその一文を確かめた ・査読者は南部陽一郎だった(本人が明かしたのは20年後の1984年) ・ヒッグスの場を消すと、重さは99%残るのに、原子が作れなくなって世界のほうが消える ■ 章立て 0:00 導入 1:10 第1章 あなたは、重力を感じていない 5:58 第2章 材料を全部足すと、百分の一 10:27 第3章 くっつけると、軽くなる 15:28 第4章 質量ゼロだけで、質量を作る 20:07 第5章 三つしかないわけではない 25:04 第6章 狭いところでは、じっとしていられない 29:43 第7章 計算で、あなたの体重を出した日 34:43 第8章 残った、一パーセント 41:08 第9章 却下された論文に、腹立ちまぎれで足した一文 47:42 第10章 重さは残るのに、世界が消える 52:36 おわりに 出口を持たない運動 ■ 補足(正確を期すために) ・「99パーセント」は、陽子・中性子の質量に対して、その中のクォークの質量を足したものが約1パーセントである、という意味です。数え方(海のクォークまで数えるか)によって1〜9パーセントの幅があります。動画の中でも、その違いを説明しています。 ・「トレースアノマリー」の23パーセントは2018年の格子QCDの計算値で、誤差があります。桁の話として受け取ってください。 ・ヒッグスの場を「水あめ」にたとえる説明を間違いと言っていますが、これは比喩の精度の話で、質量の値そのものは変わりません。 ・「質量の起源が解けた」とは言っていません。解けたのは質量というものの中身で、なぜその大きさなのかは、ひとつも解けていません。 ・ニュートリノの質量の起こり方(ヒッグスと同じ仕組みか、別の仕組みか)は決着していません。 ・慣性質量と重力質量の一致は、実験では非常に高い精度で確かめられていますが、なぜ一致するのかは分かっていません。一致すると仮定して理論を建てています。 ・今日の話は、宇宙全体でいうと約5パーセントの物質についてです。残りの重さがどこから来るのかは、また別の話になります。 ・なぜ質量が空間を曲げるのか(重力)には踏み込んでいません。 ■ 主な出典 ・S. Dürr et al. (2008) Ab Initio Determination of Light Hadron Masses, Science 322, 1224(arXiv:0906.3599 の本文を逐語確認) ・Y.-B. Yang et al. (2018) Proton Mass Decomposition from the QCD Energy Momentum Tensor, PRL 121, 212001(arXiv:1808.08677) ・Peter Higgs, Nobel Lecture 2013 “Evading the Goldstone Theorem”(却下・憤慨・書き足した一文・南部が査読者だった件は、すべてこの講演録の本文から) ・F. Englert, Nobel Lecture 2013 ・P. W. Higgs (1964) Broken Symmetries and the Masses of Gauge Bosons, PRL 13, 508 ・F. Englert & R. Brout (1964) Broken Symmetry and the Mass of Gauge Vector Mesons, PRL 13, 321 ・G. S. Guralnik, C. R. Hagen & T. W. B. Kibble (1964) PRL 13, 585 ・P. W. Anderson (1963) Plasmons, Gauge Invariance, and Mass, Phys. Rev. 130, 439 ・Particle Data Group (2024) Review of Particle Physics(クォーク質量・W/Z・トップ・ヒッグスの数値) ・CODATA 推奨値(陽子の電荷半径 0.8409 fm ほか) ■ クレジット Music: Origami by Scott Buckley (CC BY 4.0) https://www.scottbuckley.com.au/ サムネイル素材: Beam Balance(Wikimedia Commons・パブリックドメイン) 人物写真: Wikimedia Commons(パブリックドメイン/CC BY のもののみ) 学びたい大人のための大学 専門の、はるか奥。最先端まで掘り下げる。 #質量の正体 #素粒子物理 #科学解説