アンドレイ・マルコフ ── 直前だけを覚える|自由意志を数学で証明しようとした相手を潰すために、彼は詩の2万文字を鉛筆で数えた。その集計が、いま機械が言葉を扱う仕方の最初の一歩になった
数学史記
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アンドレイ・マルコフ ── 直前だけを覚える|自由意志を数学で証明しようとした相手を潰すために、彼は詩の2万文字を鉛筆で数えた。その集計が、いま機械が言葉を扱う仕方の最初の一歩になった
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アンドレイ・マルコフ ── 直前だけを覚える|自由意志を数学で証明しようとした相手を潰すために、彼は詩の2万文字を鉛筆で数えた。その集計が、いま機械が言葉を扱う仕方の最初の一歩になった
確率論は長いあいだ、独立な偶然を土台にしてきました。
1906年、ペテルブルクの数学者マルコフは、独立でなくても大数の法則は成り立つことを、
「直前だけを覚える」いちばん単純な仕組みで示します。
そして1913年、それが現実にある姿を見せるために、
プーシキンの『エフゲニー・オネーギン』の2万文字を鉛筆で数えました。
文字が独立なら、母音の次にまた母音が来る組はおよそ3700あるはずです。
彼が数えた数は1104組でした。
アンドレイ・マルコフの生涯と数学的業績を紹介します。
数学者の人生と業績を追うドキュメンタリーチャンネル「数学史記」。
0:00 導入
1:29 松葉杖の少年と猛るアンドレイ
6:49 反例と、2万文字の母音と子音
12:08 直前だけ、という譲歩
【注】
本編の『独立でなくても大数の法則は成り立つ』は、正確には『独立は必要条件ではない』という否定です。どんな依存のもとでも成り立つという意味ではありません。マルコフが1906年に構成したのは、状態が有限で、遷移の確率が時間によらず、しかもすべての遷移確率が0より大きい連鎖で、この条件のもとで各状態の頻度が一つの値に収束することを示しました。
本編の『出発点を忘れて一つの値に落ち着く』が成り立つのは、状態が有限で、どの状態からどの状態へも何手かで行くことができ、周期的な往復に閉じ込められない場合です。母音と子音の二状態で四つの遷移確率がすべて0より大きければ、この条件は満たされます。
論敵とされるパーヴェル・ネクラーソフの名誉のために書き添えます。『大数の法則が成り立つには、全部が互いに独立である必要はなく、二つずつ取り出したときに独立であれば足りる』という彼の結果は正しく、当時としては前進でした。誤っていたのは、そこから対ごとの独立が必要条件でもあると読める形で述べた点に限られます。しかもそれは明示的な言明ではなく、文脈からの読み取りだと専門家は断っています。
本編で扱った2万文字は『エフゲニー・オネーギン』の第1章の全部と第2章の16連にあたり、詩の全体のおよそ8分の1です。またマルコフはこの本文の韻律も脚韻も意味も扱っていません。文字の列として見て、母音と子音の二つに分けただけです。
【BGM】
Angel's Dream - Aakash Gandhi(YouTube Audio Library)
【映像素材】
AI生成画像:Google Gemini
数式アニメーション:Manim Community(https://www.manim.community/)
【画像クレジット】
本編およびサムネイルの肖像画は、以下の肖像写真を参照として、AI(Google Gemini)で油絵風に生成しました(原著作者とライセンスは下記のとおり)。
AAMarkov.jpg by Unknown author, PUBLIC DOMAIN (https://creativecommons.org/publicdom...) via Wikimedia Commons
【主要参考文献】
A. A. Markov, 'An Example of Statistical Investigation of the Text Eugene Onegin Concerning the Connection of Samples in Chains', Science in Context 19(4) (2006) 591-600 ── 1913年1月23日の講演の英訳(Alexander Y. Nitussov・Lioudmila Voropai・David Link がドイツ語に訳し、それを Gloria Custance・David Link が英訳した)。原論文は Bulletin of the Imperial Academy of Sciences of St. Petersburg 7(3) (1913) 153-162。母音8638・子音11362・母音-母音1104・数え方の全て
Brian Hayes, 'First Links in the Markov Chain', American Scientist 101(2) (March-April 2013) 92-97 ── 論争と『オネーギン』の解説。ネクラーソフの1902年の論法、マルコフの気質と政治的抗議、チュプロフ宛の引用、現代の応用
E. Seneta, 'A Tricentenary history of the Law of Large Numbers', Bernoulli 19(4) (2013) 1088-1121 (arXiv:1309.6488) ── ネクラーソフの前進と誤りの正確な内容、マルコフの1906年の反例、1913年の二百年記念と、チュプロフ宛書簡二通(1月15日・1月31日)の該当箇所の英訳
G. P. Basharin, A. N. Langville, V. A. Naumov, 'The Life and Work of A. A. Markov', Linear Algebra and its Applications 386 (2004) 3-26 ── 標準的な英語伝記。膝の障害と手術、弟ウラジーミル、結婚の経緯、破門の請願、1921年の靴、1913年の教科書第3版
Kh. O. Ondar (ed.), The Correspondence Between A. A. Markov and A. A. Chuprov on the Theory of Probability and Mathematical Statistics, Springer-Verlag (1981) ── マルコフとチュプロフの往復書簡(1910年から1917年)の英訳。本編で引いた1913年1月15日付の提案は、この書簡集を引用する Seneta を通して参照した
MacTutor History of Mathematics: Andrei Andreyevich Markov (https://mathshistory.st-andrews.ac.uk...) ── 生没、家族、学歴と職歴の年、政治的抗議
Angelo Maria Sabatini, 'Markov reads Pushkin, again: A statistical journey into the poetic world of Evgenij Onegin', arXiv:2604.20221 ── マルコフの集計の現代的な再現。分散係数0.303と0.199を報告
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