【⚡朗読ラップ】谷崎潤一郎『恐怖』四(完) ~カオーッと笛が鳴って、電車がとう/\走り出した。 #朗読ラップ #谷崎潤一郎 #恐怖
⚡夜語りフロウ⚡ -tko imai-
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【⚡朗読ラップ】谷崎潤一郎『恐怖』四(完) ~カオーッと笛が鳴って、電車がとう/\走り出した。 #朗読ラップ #谷崎潤一郎 #恐怖
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▼再生リスト:谷崎潤一郎
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▼出典:青空文庫
https://www.aozora.gr.jp/cards/001383...
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■谷崎潤一郎『恐怖』四
【あらすじ】友人K氏との邂逅 〜 Aさんと共に電車に乗り込み、死の恐怖の中で走り出す。
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けれども若し、大阪へ行かれないで、電車の中で卒倒するような事があったら………
「あゝ」
私は深い溜め息をついて、恨めしそうに電車の影を睨みながら、ベンチから立ち上った。一層の事、やぶれかぶれに先斗町へでも遊びに行こうか、それとも、もう少し此処に辛抱して、気分の静まる折を待って居ようか。だんだん日が暮れて、晩になって、夜が更け渡って、最終の電車が出て了うまで、つくねんと蹲踞った揚句やっぱり望みを達せずに、空しく木屋町へ戻る事になったら、却ってあきらめが着いてせいせいするだろう。
「や、Tさん、此れから孰方へお出掛けです。」
声をかけられて振り返ると、其れは友人のK氏であった。面長の冴え冴えした目鼻立に、きれいな髪の毛を前の方だけきちんと分けて、パナマ帽を心持ち阿弥陀に冠り、白足袋を穿き雪駄をつッかけて、なか/\軽快な服装をして居る。私は、何か犯罪が露顕した如くギョッとして、
「ちょいと大阪まで………」
と、口籠るように答えて、にやにやと変てこな笑い方をした。
「あ、そうですか、いつかお話しの徴兵の事で………」
K氏は直ぐに合点して、
「わたくしも今日用事があって、伏見まで参ります。そりゃ丁度よい所でしたな。御一緒に中途までお供しましょう。」
「えゝ」
「Tさんに御紹介します。此れは私の友人のAさんで………」
と云いながら、K氏は委細構わず自分の伴れの男―――色白の小太りに太った可愛らしい、八字鬚を生やした、三十二三のドクトルを紹介した。
「さあ、そろ/\乗ろうじゃありませんか。どうぞお先へ。」
「えゝ、ありがと」
私は依然煮え切らない挨拶をして、其の癖K氏に勧められるまゝずる/\と引き擦られるように、あの恐ろしい、物凄い、電車の傍へ近寄って行った。
「さあ、さあ、どうぞお先へ。」
K氏は何度もこう云って、両手で私の腰を煽るようにした。
「それでは、御免蒙ります。」
思い切って、眼を潰って、私はひらりと昇降口を跨いだ。そうして、室内へ入ると即座に吊り革へぶら下って、ウイスキーの喇叭飲みをやった。(腰をかけて了うよりは、まだ吊り革にぶら下って居る方が、いくらか運命の手を弛められて居るように感じるのだ。)
「どうもお盛んですな。餘程御酒を召し上ると見えますな。」
と、Aさんが云った。
「ナニ僕は電車が嫌いですから、酒に酔ってゞも居ないと、気持が悪くなって仕様がないんです。」
私は、医者に話をするとしては、少し理窟が立たぬような弁解をした。
カオーッと笛が鳴って、電車がとう/\走り出した。
「いよ/\己は死ぬのかな。」
と、私は心の中で呟いた。断頭台へ載せられる死刑囚の気持も、此れと同じに違いないと思った。
「Aさんどうです、Tさんは検査に合格しますか知ら。」
K氏がこんな質問をする。
「そうですなあ。あなたは取られそうですなあ。何しろむくむく太って居て、立派な体格ですからなあ。」
左右の窓には、京都の市街が盡きて、郊外の青葉や、樹木や、往還や、丘陵がどんどん走って居た。ひょッとしたら、無事に大阪へ着けるかも知れないと云う安心が、其の時漸く私の胸に芽ざした。