薬物療法がバチっとはまることもある。精神科医が語ります。
精神科医 芳賀高浩
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薬物療法がバチっとはまることもある。精神科医が語ります。
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精神科医 芳賀高浩
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はい、こんばんは。精神科医の芳賀高浩でございます。
今日はですね、「薬物療法が、きちっとはまる時もある」という話をしてみたいと思います。
精神科の薬物療法というのは、非常に難しいところがあります。薬がカチッとはまる時も、もちろんあります。医者として診療していても、「あ、これはうまくはまったな」「やったぞ」と思う瞬間は、たしかにあるんです。
ただし、最初に大事なことを言っておきます。
その「カチッとはまる瞬間」ばかりを追い求めてしまうと、薬物療法に固執することになります。精神科の治療というのは、薬物療法だけで成り立っているわけではありません。カウンセリング的な関わりもありますし、生活習慣の調整もあります。家族関係、仕事、睡眠、食事、運動、孤立の有無、そういったものが全部絡み合っています。
ですから、薬だけに固執するのは、あまり良くないんです。
実際には、薬物療法が効いたように見えても、その背景でカウンセリングや生活習慣の改善がじわじわと底上げしていて、たまたま薬の変更とタイミングが重なって「薬がはまった」ように見えている場合もあります。
ですので、「薬だけで全部解決する」とは思わない方がいいです。
ただ、それでもやはり、薬物療法がバチッとはまることはあります。今日は、個人情報は十分に改変したうえで、最近経験した二つのケースを通して、「薬物療法がはまる時とはどういうことなのか」をお話ししてみたいと思います。
一つ目は、妄想性障害の方です。
妄想性障害というのは、ざっくり言うと、妄想が中心となる病気です。妄想というと統合失調症を思い浮かべる方も多いと思いますが、統合失調症と妄想性障害は少し違います。
統合失調症では、妄想や幻聴といった陽性症状だけではなく、陰性症状が問題になることがあります。陰性症状というのは、意欲が低下したり、感情の動きが乏しくなったり、社会的な活動が落ちていったりする症状です。
うつ病のように「悲しい」「つらい」といった抑うつ感が前面に出るというよりも、悲しそうには見えないけれど、やる気が出ない。人と関わらない。以前できていたことができなくなる。そうやって社会機能が下がっていくことがあります。
一方で、妄想性障害の方は、人格水準が大きく低下しないことが多いです。仕事ができる方もいますし、日常生活もある程度保てます。妄想の話題が出てこなければ、普通に話ができる方も多いです。
だから一見すると、「統合失調症より軽い病気なのではないか」と思われるかもしれません。
しかし、臨床的にはそう単純ではありません。
妄想性障害は、薬物療法が効きにくいことが少なくありません。妄想そのものが完全になくなる、ということはなかなかありません。治療目標としては、妄想にとらわれる時間が短くなること、妄想を話題にする頻度が減ること、妄想に基づいた行動が減ること、そういうところを目指していきます。
たとえば、「隣の家から毒ガスを注入されている」と訴える方がいたとします。これは被害妄想の一つの形です。
治療がうまくいってくると、「この一週間、毒ガスはありましたか」と聞いた時に、「今後もないとは言い切れないけれど、この一週間はなかったです」と答えられるようになることがあります。妄想がゼロになるというより、妄想に支配される時間が減ってくるわけです。
ところが、妄想というのは、なかなか抗精神病薬が効きにくい。
統合失調症の薬、つまり抗精神病薬は、基本的にはドーパミンを抑える方向に作用します。セレネース、つまりハロペリドールのような薬は、かなりピュアにドーパミンを抑えます。ロナセン、つまりブロナンセリンもそうですし、エビリファイ、つまりアリピプラゾールも、ドーパミンD2受容体にかなり焦点を当てた薬です。
私は、比較的こういうピュアな薬が好きです。
いろいろな受容体に幅広く作用する薬ももちろんあります。リスパダール、セロクエル、ジプレキサ、レキサルティなどは、それぞれドーパミン以外にもセロトニン、ヒスタミン、アドレナリン系など、いろいろな受容体に作用します。
もちろん、それが良い方向に働くこともあります。
ただ、私の感覚としては、まずは狙ったところにきちんと当てたいんです。スナイパーのように、ここだ、と思ったところに一発で当てたい。マシンガンのように広く撃って、どれか当たればいいというやり方は、当たるかもしれないけれど、別のところにも影響が出ます。
ですので、妄想に対しては、まずピュアなD2系の薬でいくことがあります。
ところが、その方にはうまくいきませんでした。妄想はあまり改善せず、さらにドーパミンを抑えたことによる二次性の陰性症状のようなものが出てしまいました。気持ちがつらくなったり、死にたくなったり、精神的な副作用が出てきたわけです。
これは厳しいなと思いました。
そこで、より幅広く受容体に作用する薬へ変更しました。具体的にはレキサルティ、つまりブレクスピプラゾールです。
すると、その方にはかなり良くはまったんです。
社会機能を落とさず、妄想の頻度が減りました。妄想が完全になくなったわけではありません。しかし、その妄想に振り回される時間が明らかに減りました。
これは私にとっても印象的でした。
直接ドーパミンを抑えるだけではうまくいかなかったけれど、セロトニンやノルアドレナリン、ヒスタミンなどを介して、間接的にドーパミン系に働きかけるような経路が、その方には合っていたのだと思います。
同じ抗精神病薬でも、こんなに違うのかと改めて感じました。
もちろん、その方も薬だけで良くなったわけではありません。カウンセリング的な関わりもありましたし、生活の安定もありました。ただ、少なくとも主治医として見ていると、薬の変更がかなり大きな転機になったと感じました。
これが一つ目のケースです。
もう一つは、処方薬依存に近い状態の方です。
その方は、不眠に非常に悩んでいました。ベンゾジアゼピン系の薬もかなり多く使っていて、サイレースやリボトリールも上限近くまで使用していました。抗精神病薬も複数、かなりの量が入っていました。リスパダールも多く、セロクエルも多く、抗うつ薬としてミルタザピンも使っていました。
それでも眠れない。
そして、薬が多いために副作用も出てきます。体重増加もありますし、眠気、ふらつき、むずむず脚のような症状もありました。
処方薬依存の方というのは、多くの場合、不眠が根本にあります。「眠れない」「眠れない」と訴えて、薬が少しずつ増えていく。そして薬が増えると、副作用が出る。副作用が出ると、それを抑えるためにまた別の薬が増える。そうやって薬が積み重なっていくことがあります。
この方も、まさにそういう状態でした。
そこで、夜間の足のむずむずをきっかけに、レグナイトを使うことにしました。レグナイトはガバペンチン系の薬で、もともとは抗てんかん薬に近い性質を持ちます。レストレスレッグス症候群、つまりむずむず脚症候群に使われる薬です。
抗てんかん薬、神経障害性疼痛に使う薬、気分安定薬というのは、どこか近いところがあります。リリカやタリージェもそうですし、デパケンもそうです。神経の過敏さを少し落としていくようなイメージです。
すると、この方にはレグナイトが非常にはまりました。
はまったというより、正確には、かなり眠気が出ました。
高齢者では、こういう薬で眠気やふらつきが出ることがあります。背骨の変形による神経痛などにリリカやタリージェを使うことがありますが、眠気でふらついて転倒し、骨折することが一番怖い副作用です。
ですから、本来は慎重に見なければいけません。
ただ、この方の場合、その眠気を逆に利用する形になりました。
レグナイトで眠れるようになったため、これまで睡眠目的に近い形で使っていたセロクエルやミルタザピンを大きく減らすことができました。セロクエルもミルタザピンも、体重増加が問題になりやすい薬です。その方は体重増加にも悩んでいましたので、この二つを減らせたことは非常に大きかったと思います。
普通なら、こういう薬は慎重に少しずつ減らします。離脱症状もありますし、急に減らして不眠が悪化することもあります。主剤を変える、あるいは大きく減らすというのは、主治医にも患者さんにもエネルギーが必要です。うまくいかなければ、大崩れして入院につながることもあります。
ですから、簡単にできることではありません。
しかしこの方の場合は、レグナイトが眠気という形でバチッとはまり、その結果として、これまで減らせなかった薬を減らすことができました。
これも、狙ってできることばかりではありません。たまたまうまくいった面もあります。
ただ、薬理作用を知っていて、「理論上はここに効くかもしれない」と当たりをつけていく。そのうえで実際に試してみる。そうすると、まれにバチッとはまることがあります。
私は何百人もの患者さんを診ていますが、「これは本当に薬がはまったな」と感じるケースは、月に一人か二人くらいです。打率で言えば、決して高くありません。
多くの場合は、少し効いたり、少し副作用が出たり、変わったような変わらないような経過をたどります。その中で、生活習慣を整えたり、対人関係を整理したり、カウンセリング的に支えたりしながら、少しずつ全体を底上げしていきます。
それが精神科医療の現実です。
ただ、薬物療法が全然意味がないわけではありません。
薬物療法がうまくいかないと感じている方もいると思います。「どうせ変わらない」「薬を飲んでも副作用ばかりだ」と思っている方もいるかもしれません。
たしかに、薬が魔法のように効くことは少ないです。
でも、ないわけではありません。
バチッとはまることも、たまにはあります。
ただ、そのためには患者さん側にも、主治医側にも、ある程度の余力が必要です。薬を変えるというのは、リスクを伴います。今の薬を減らすことも、新しい薬を試すことも、簡単なことではありません。
そして私の経験上、薬の変更がうまくいきやすい方というのは、副作用ばかりに焦点を当てすぎない方です。もちろん、副作用は大事です。副作用を無視してはいけません。
ただ、診察の場で副作用の話だけになってしまうと、どうしても後ろ向きな議論になります。「これも怖い」「あれも嫌だ」「前の薬もだめだった」となっていくと、結局、現状維持になりやすい。
一方で、「もう少し効果を狙ってみたい」「今より少し楽になる可能性を探したい」というムードがあると、薬物療法の打率は少し上がる気がします。
副作用はきちんと確認しながら、それでも作用を見にいく。
そういう姿勢が、薬物療法では大事なのだと思います。
薬物療法は万能ではありません。薬だけで人生が変わるわけではありません。カウンセリングも、生活習慣も、環境調整も、人とのつながりも必要です。
しかし、薬がバチッとはまることもあります。
その時、患者さんの生活が一段階楽になることがあります。妄想にとらわれる時間が減ることもあります。眠れるようになって、余分な薬を減らせることもあります。体重増加の原因になっていた薬を整理できることもあります。
そういう瞬間があるから、私は薬物療法をあきらめずに続けています。
今日は、「薬物療法がバチッとはまることもある」という話を、二つのケースを通してお話ししました。
ではまた、明日もお会いしましょう。さよなら。