毎晩、はじめまして|夫が私を旧姓で呼ぶ
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毎晩、はじめまして|夫が私を旧姓で呼ぶ
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「毎晩、はじめまして」
結婚して五十年。家では「おい」「あれ」しか言わなかった夫が、認知症になって、私のことを忘れました。
グループホームの談話室で、夫は毎晩、私の旧姓を呼びます。
「はじめまして。……森下さん、ですよね」
そして、生まれて初めて聞く言葉で、私を口説くのです。
毎晩ちがう口説き文句は、どこから来るのか。
夫の古い黒い手帳には、テープで閉じたページがありました。「金婚式まで、開けるな」。
五十年分の、言えなかった言葉の物語です。
▼登場人物
春江(72)…語り手。旧姓・森下。夫のホームに毎日、夕方に通う
誠一(77)…夫。元・百貨店の紳士服売り場の店員。客の前ではよくしゃべるのに、家では無口だった
樋口(26)…グループホームの介護職員。まじめで少し不器用
由紀(46)…娘。大阪で働く
トメさん(88)…同じホームの入居者。にぎやかなおばあさん
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