【パリの病院で日本人の患者を診続けた精神科医が、その心の不調に名前をつけたら、いつのまにか報道の数字だけが育っていった】パリ症候群——十六年で六十三人
真夜中の資料室
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【パリの病院で日本人の患者を診続けた精神科医が、その心の不調に名前をつけたら、いつのまにか報道の数字だけが育っていった】パリ症候群——十六年で六十三人
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パリで心の不調に陥った日本人旅行者——「パリ症候群」は、パリで日本人の患者を診てきた精神科医・太田博昭が1980年代に使い始め、1991年の著書で広まった呼び名です。いちばん確かな数字は、2004年の論文に記された「1988〜2004年にサンタンヌ病院へ急な状態で入院した日本人63人」、ならすと年に4人ほどでした。今夜は、その記録が報道を渡るうちに「年に数十件」「24時間ホットライン」「年12人送還」へと姿を変えていった過程を点検します。
0:00 憧れの街で
0:40 名づけた医師
1:17 どんな状態か
1:51 二〇〇四年の論文
2:25 十六年で六十三人
2:58 五つの条件
3:31 大使館の数字
4:05 幻の相談電話
4:36 治療が送還に
5:12 日本人だけか
5:55 診断名ではない
6:32 似た呼び名
7:27 憧れと落差
■ この回で扱うこと
・盗聴を恐れた旅行者、ルイ14世だと信じた男性という報道の例
・太田博昭とサンタンヌ病院、1980年代に生まれた言葉と1991年の著書『パリ症候群』
・報告された状態:急な妄想、げんかく、狙われているという感じ、現実感の喪失、強い不安、めまい・動悸・発汗
・2004年、フランスの精神医学誌ネルヴュールに載ったヴィアラらの4ページの論文
・16年で63人(男性29人・女性34人、約半数が20〜30代、48人が精神病性の病気と診断)
・論文が挙げた5つの条件:言葉の壁、人づきあいの作法の違い、文化の差、パリの理想化、旅の疲れ
・2006年10月のガーディアン紙と、大使館の担当者が語った「年に20件ほど」
・同年12月にBBCが伝えた「24時間ホットライン」と、大使館の否定
・「年に十数人が治療」が「年に12人ほどが送還」へ変わった経緯
・オテル・デュー病院のマフムディア医師の見方(旅に関わる入院は年に約50人、うち日本人は3〜5人)
・2014年に報じられた中国からの旅行者の例
・正式な診断名ではないこと
・似た呼び名:エルサレム症候群(2000年の報告)とスタンダール症候群(1989年のマゲリーニ)
■ 扱いについて
特定の国の人や、心の不調を経験した人をからかう意図はありません。パリ症候群は、アメリカ精神医学会の診断の手引きにも、世界保健機関の分類にも載っていない通称で、正式な診断名ではありません。言葉が使われ始めたのは1980年代で、1991年の本はそれを広く知らせたものです。「年に数十件」という数字の出典は、調べた資料には見つかりませんでした。報じられた数字は「年に20件ほど」「年に十数人が治療」で、一つの病院の一次データは16年で63人です。24時間ホットラインは報じられましたが、大使館は2006年と2011年に存在を否定したと記録されています。大使館は2011年に、パリ症候群の人を送還してはいないと答えています。63人のうち48人は精神病性の病気と診断されており、パリに来たことが原因なのか、もとからの不調が旅で表に出たのかは、論文の数字だけでは分かりません。日本人が特になりやすいとは断定していません。エルサレム症候群の報告には、ほぼ全員が来訪前から心の病を抱えていたという反論があります。旅先で心が苦しくなったときは、一人で抱えず、まわりや医療に頼ってください。
※この動画は医学的助言ではありません。心配な症状がある場合は医療機関にご相談ください。
【主な参照】
・Viala, A., Ota, H., Vacheron, M. N., Martin, P. & Caroli, F. (2004)「Les Japonais en voyage pathologique à Paris : un modèle original de prise en charge transculturelle」Nervure 17(5):31–34
・太田博昭『パリ症候群』トラベルジャーナル (1991)
・国立国会図書館 典拠データ「太田博昭」 https://id.ndl.go.jp/auth/ndlna/00211570
・Bar-El, Y., Durst, R., Katz, G., Zislin, J., Strauss, Z. & Knobler, H. Y. (2000)「Jerusalem syndrome」British Journal of Psychiatry 176:86–90
・Magherini, G.『La sindrome di Stendhal』Ponte alle Grazie (1989)
#パリ症候群 #精神医学 #旅行と心 #真夜中の資料室
【画像出典】
・Caillebotte Rue de Paris / Gustave Caillebotte / Public domain(1877年の絵画「パリの通り、雨」)
・Camille Pissarro, The Boulevard Montmartre at Night, 1897 / Camille Pissarro / Public domain(1897年の絵画「モンマルトル大通り、夜」)
・Tour Eiffel Wikimedia Commons / Benh LIEU SONG / Public domain(エッフェル塔)
・Notre-Dame-de-Paris, Hôtel-Dieu, 4ème arrondissement, Paris. PH2589 / Henri Emile Cimarosa Godefroy / CC0(19世紀のノートルダム大聖堂とオテル・デュー病院)
・Jerusalem Old City Walls C / כיכר השבת(ヘブライ語版ウィキペディアの利用者) / Public domain(エルサレム旧市街の城壁)
音声: VOICEVOX(四国めたん / ずんだもん)/ 立ち絵: 坂本アヒル様 / BGM: 甘茶の音楽工房 / 効果音: 効果音ラボ / 背景動画: Pexels