なぜ「正しい人」を嫌うのか?:無意識が招く心理的反発
クロ先生のひとりごと
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なぜ「正しい人」を嫌うのか?:無意識が招く心理的反発
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断ったのは、たった一人だった。
ある実験で、参加者たちは並んだ容疑者の中から一人を選ぶよう指示されます。そのやり方に「不快だ」とはっきり異議を唱えた人物が一人だけいました。この同じ一人を、二つの立場から評価してもらいます。課題を出されていない、横で見ていただけの人たち。そして、先に同じ課題に従ってしまっていた人たち。
前者にとって、その人物はまっとうで立派な人間でした。後者の評価は、正反対でした。
同じ一人、同じ一つの拒否。それなのに、なぜ評価だけが真っ二つに割れるのか。
この動画では、肉を食べる人四十七人の連想調査、二百五十五人を対象にした「想像させるだけ」の実験、一字一句固定したせりふを三百三十一人に読ませた検証、そして同じ人物への評価が読み手の立場だけで符号ごと反転した二百十四人分のデータをたどりながら、その嫌悪感がどこから来ているのかを追いかけます。
答えは「正しい人は嫌われる運命にある」でも「断った人はいつも正しい」でもありません。決め手になったのは、相手が何をしたかではなく、こちらの採点表がまだ空欄だったかどうかでした。
ただし、これは「良い行いをすれば嫌われる」という話ではありません。同じ選択を自分も迫られた人にだけ起きる反応であり、その選択と無関係な立場では、評価はむしろ上がっています。研究はいずれも欧米の学生・オンライン調査を対象としたものです。詳しい条件と限界は下の出典欄に書いています。
■ チャプター
00:00 二つの採点表
01:44 不在の審判
03:40 台本は、変わっていない
05:22 先に下がっていたのは
07:45 実験室を出ても、採点は続く
10:07 採点表を閉じる
■ 参考文献・出典
[1] Monin, B., Sawyer, P. J., & Marquez, M. J. (2008). "The rejection of moral rebels: Resenting those who do the right thing." Journal of Personality and Social Psychology, 95(1), 76-93. https://doi.org/10.1037/0022-3514.95....
(序章で紹介した、容疑者の並びから一人を選ぶ課題と、その課題を「不快だ」と拒んだ人物をめぐる研究。課題を出されていない観察者はその人物を高く評価し、先に同じ課題に従っていた参加者は同じ人物を低く評価しました。拒絶は「相手から見下されるだろう」という見込みを介して起きており、評価の前に自分にとって大事な価値観を一つ確認させると、その拒絶は弱まっています)
※この論文は本文が有料公開のため、本動画では公式抄録と、著者自身が別論文[2]の中で自分の研究を要約している記述の範囲でのみ扱っています。参加者数・効果量・具体的な手続きには一切踏み込んでいません。
※価値観を書かせる手続きの効果は「弱まった」であり、「なくなった」ではありません。
[2] Minson, J. A., & Monin, B. (2012). "Do-Gooder Derogation: Disparaging Morally Motivated Minorities to Defuse Anticipated Reproach." Social Psychological and Personality Science, 3(2), 200-207. https://doi.org/10.1177/1948550611415695
(第一章の出典。肉を食べる参加者四十七人に「ベジタリアン」と聞いて浮かぶ言葉を書き出してもらったところ、四十七%が少なくとも一つは否定的な言葉を書いていました。「ベジタリアンは自分たちを道徳的に上だと思っているはずだ」と強く見込んでいる人ほど、その言葉は否定的でした。二百五十五人を対象にした別の実験では、評価の直前に「相手から自分がどう思われているか」を一度想像させるだけで、ベジタリアンについての新しい情報を何一つ与えていないにもかかわらず、評価が低く出ています。さらに六十七人を対象にした追試では、肉を食べる人が予想した見下しの量は、実際のベジタリアンの回答のおよそ三倍でした)
※四十七%は「半数近く」であって「大多数」ではありません。
※見下しが実際にゼロだったわけではありません。予想より小さかった、という話です。
※第一章の実験が示しているのは、相手が何かをしたから評価が下がったのではなく、こちらが想像しただけで下がった、という点です。
[3] Czopp, A. M., & Monteith, M. J. (2003). "Confronting Prejudice (Literally): Reactions to Confrontations of Racial and Gender Bias." Personality and Social Psychology Bulletin, 29(4), 532-544. https://doi.org/10.1177/0146167202250923
(第二章の出典。三百三十一人に、偏見のある選び方に誰かが異議を唱える場面を読ませた実験です。異議のせりふは一字一句固定され、言葉の強さも順序も全員同じ。変えたのは、異議を唱えたのがその偏見の標的にされる側の人間かどうかだけでした。同じせりふでも、標的にされる側から言われたときのほうが「大げさに騒いでいる」と受け取られています)
※言い方・態度・語調は条件間で変えていません。変えたのは話者の立場だけです。
※同論文の別の研究では、もともと偏見の弱い人ほど、指摘されたあとに強い罪悪感を報告しています。「偏見のある人だけが反発する」という話ではありません。
[4] Bolderdijk, J. W., Brouwer, C., & Cornelissen, G. (2018). "When Do Morally Motivated Innovators Elicit Inspiration Instead of Irritation?" Frontiers in Psychology, 8:2362. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.02362
(第三章の出典。二百十四人分の回答を分析した実験で、環境に配慮した買い物を一つ選んだ人物についての、ごく短い同じ紹介文を読ませています。違うのは「そうするのが正しいと思うから」か「単に自分の好みに合うから」かという理由だけ。さらに、参加者の半分にはその紹介文を読む直前に、まったく同じ選択が実際に差し出され、それを見送った人だけが次に進んでいます。関わりのない立場で読んだ側は、道徳的な理由の人物を高く評価しました。ところが、たった今その選択を見送ったばかりの側では評価が裏返り、道徳的な理由の人物ほど評価が下がっています。同じ研究で、その人たちは相手の点数を下げると同時に、自分自身への満足度も落としていました)
※紹介文の本文は両条件で同一です。人物の行動が違っていたわけではありません。
※「自分への満足度が先に下がり、それが相手への評価に流れ込んでいた」というのは、この論文が報告している統計的な媒介です。本人が意識的に罪悪感を覚えたかどうかは、この研究は測っていません。
※回答者はオンライン調査で集められた、オランダを中心とする二十代前半の層に偏っています。
[5] Martinez, J. (2009年1月29日). New York Daily News.([2]の中で言及されている実際の事例)
(第四章で触れた、ウォール街で働く社員がベジタリアンであることをからかわれたとして正式に嫌がらせの訴えを起こした件。[2]が自論文の中で引いているものです)
※事件の詳細は、上記以上のことを本動画では扱っていません。
※本編に出てくる日常の場面(飲み会での注文、会計での申し出、会議での一言、SNSのミュートなど)は、同じ構造を考えるための例であり、日本で同じ効果が実証されたという意味ではありません。
※四つの研究はいずれも欧米の大学生またはオンライン調査の参加者を対象としたものです。文化を越えて普遍的に成り立つことが確認されたものではありません。
※この動画は、上記の研究を手がかりに日常のパターンを考える教育コンテンツです。数値や解釈は調査主体・時点・研究設計により異なる場合があります。個別の行動や心身の状態を診断するものではなく、特定の個人・団体・職業・食生活・信条を貶める意図もありません。
#社会心理学 #道徳心理学 #人間関係