空腹の物乞いに飯を分けた九歳の少女――三ヶ月後、男の正体に村中が騒然|民話|江戸時代|伝説|昔話|
涙灯りの民話庵
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空腹の物乞いに飯を分けた九歳の少女――三ヶ月後、男の正体に村中が騒然|民話|江戸時代|伝説|昔話|
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空腹の物乞いに飯を分けた九歳の少女――三ヶ月後、男の正体に村中が騒然|民話|江戸時代|伝説|昔話|
文化のころ、房総の海に近い小さな村・汐見村。
貧しい漁師の家に、
九歳の少女・お咲が暮らしておりました。
決して裕福ではない暮らし。
それでもお咲は、
困っている人を見ると放っておけない、
心の優しい娘でございました。
ある日、村外れの地蔵堂のそばで、
ぼろぼろの着物をまとい、
杖をついて苦しんでいる一人の物乞いを見つけます。
男の名は、又蔵。
「もう幾日も、ろくに食べておりません」
その言葉を聞いたお咲は、
自分も腹を空かせていたにもかかわらず、
持っていたわずかな飯を分け与えました。
それからというもの、
お咲は何度も地蔵堂へ通い、
握り飯や芋、漬物を届けるようになります。
やがて父・弥八と母・お筆も、
又蔵を見捨てることができなくなりました。
舟の綱を買うための銭。
大切にしていた着物。
そして薬代。
貧しい一家は、
自分たちの暮らしを削りながら、
三ヶ月ものあいだ又蔵を助け続けます。
村人たちは言いました。
「いくら何でも、あの一家は人が良すぎる」
「物乞いにそこまでしてやる必要があるのか」
それでもお咲は、
又蔵を疑おうとはしませんでした。
しかし、
少しずつ奇妙なことが起こり始めます。
痛むはずの足が、
日によって変わる。
夜になると、
杖なしで歩いていたという噂。
そして別の土地では、
まったく違う名前を名乗っている男。
やがて行商人の卯吉が、
近くの宿場で驚くべき光景を目撃します。
そこにいたのは、
杖も使わず、
荷物を軽々と担ぎ、
元気に歩いている又蔵でした。
しかも男は、
「徳松」という別の名前を名乗り、
「病気の息子のために金が必要だ」
と、別の人々から銭を受け取っていたのでございます。
村人たちは又蔵を問い詰めます。
それでも男は、
最後まで足の悪い物乞いを演じようとしました。
しかし――
杖を取り上げられた瞬間、
又蔵は悪いはずの足で、
しっかりと地面に立ってしまいます。
地蔵堂の前に集まった村人たちは騒然。
そしてついに、
又蔵はすべてを白状しました。
十年以上、
村から村へと渡り歩き、
病気を装い、
名前を変え、
情け深い家族を見つけては、
飯や銭を受け取っていたこと。
特に、
幼い子供のいる家庭は疑うことを知らないため、
狙いやすかったというのです。
三ヶ月ものあいだ、
心から又蔵を信じ続けたお咲。
「わたしにくださった、
あの優しい言葉は、
全部、嘘だったのですか」
その問いに、
又蔵は顔を上げることができませんでした。
しかし、この物語は、
単なる「騙された少女」の話ではございません。
人を信じること。
人を助けること。
そして、
善意を守りながらも、
確かめる知恵を持つこと。
又蔵の正体を知った後、
お咲が選んだ道とは――。
これは江戸時代の小さな漁村を舞台に、
九歳の少女の優しさと、
人を信じることの難しさを描いた人情物語です。
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