統合失調症の陰性症状に効く薬とは?精神科医が徹底解説
精神科医 芳賀高浩
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統合失調症の陰性症状に効く薬とは?精神科医が徹底解説
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精神科医 芳賀高浩
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どうも、精神科医の芳賀高浩です。
今日は、患者さんとの診察の中で非常に勉強になる質問をいただきましたので、その内容を皆さんと共有したいと思います。
テーマは「統合失調症の陰性症状に効く薬は何なのか。そして、その薬ですら十分な効果を実感できないのはなぜなのか」ということです。
今回取り上げる薬は、アリピプラゾールです。商品名ではエビリファイとして知られています。
アリピプラゾールを改良したブレクスピプラゾールという薬もありますが、今回は作用機序を理解していただくため、アリピプラゾールに絞って説明します。
患者さんからの鋭い質問
ある患者さんから、このような質問をいただきました。
「先生、僕は統合失調症の陰性症状で苦しんでいるんだと思います。今使っているアリピプラゾールは、陰性症状にも効く薬なんでしょうか?」
さらに、その方はこう続けました。
「幻覚や妄想、頭が混乱するような陽性症状は、薬を飲むようになってだいぶ良くなった気がします。でも、どうしてもやる気が出ないんです。先生は陰性症状にも効くとおっしゃいますが、あまり効いている実感がありません」
これは非常に本質的な質問です。
私たち精神科医は、普段から薬の作用について説明しています。しかし、患者さんからこうした具体的な疑問を投げかけられると、改めて自分の知識を整理し、分かりやすく説明する必要が出てきます。
そこで私は、紙に図を書きながら説明しました。
その説明に患者さんが大変納得してくださったので、今日は皆さんにもお伝えしたいと思います。
アゴニストとアンタゴニストの違い
まず、薬の作用を理解するうえで、二つの言葉を覚えていただきたいと思います。
「アゴニスト」と「アンタゴニスト」です。
アゴニストは受容体を刺激して作用を引き起こす薬、アンタゴニストは受容体に結合して、その働きを妨げる薬です。
アンタゴニストは、簡単に言えばブロックする薬だと考えてください。
多くの抗精神病薬は、ドーパミンD2受容体を遮断することで効果を発揮します。
例えば、リスペリドンという非常によく使われる抗精神病薬があります。この薬はD2受容体を遮断することで、幻覚や妄想などの陽性症状を改善させます。
ところが、アリピプラゾールは少し違います。
アリピプラゾールは「ドーパミンD2受容体部分アゴニスト」と呼ばれる薬です。
つまり、ドーパミン受容体を完全に遮断するのではなく、部分的に刺激する薬なのです。
ここで不思議に思いませんか?
統合失調症ではドーパミンの働きが過剰になることで幻覚や妄想が生じると説明されます。それなのに、ドーパミン受容体を刺激する薬が、なぜ抗精神病薬として働くのでしょうか。
ここが今日の重要なポイントです。
統合失調症ではドーパミンの働きに偏りがある
統合失調症は、単純に脳全体のドーパミンが多すぎる病気ではありません。
脳の部位によって、ドーパミンの働きに違いがあると考えられています。
例えば、中脳辺縁系という神経回路があります。
この領域ではドーパミンの働きが過剰になることで、幻覚や妄想などの陽性症状が生じると考えられています。
一方、前頭前野という、おでこの後ろに位置する脳の領域があります。
この領域ではドーパミンの働きが十分ではないことが、意欲の低下や認知機能の問題などに関係していると考えられています。
つまり、分かりやすく説明すると、中脳辺縁系ではドーパミンの刺激が強すぎる。一方、前頭前野ではドーパミンの働きが足りない。
このような脳内のドーパミン機能の偏りが、統合失調症の症状に関係しているという説明モデルがあるわけです。
ただし、実際の統合失調症の病態はもっと複雑です。陰性症状のすべてが前頭前野のドーパミン不足だけで説明できるわけではありません。
アリピプラゾールは強すぎる刺激を弱くする
ここから少し数字を使って説明します。
あくまで理解を助けるための例えです。
中脳辺縁系で、ドーパミンがD2受容体に「10」の刺激を加えているとしましょう。
本当は「5」くらいの刺激で十分なのに、「10」も刺激しているため、幻覚や妄想が生じていると仮定します。
ここにアリピプラゾールが入ってくるとどうなるでしょうか。
アリピプラゾールはD2受容体に結合しますが、ドーパミンほど強く刺激するわけではありません。
例えば、アリピプラゾール自体が「2」の刺激を与えると考えてください。
もともと「10」の刺激が加わっていたところにアリピプラゾールが結合すると、刺激が「2」になるというイメージです。
つまり、10から2へ、刺激が大幅に減るわけです。
このように、アリピプラゾール自体には受容体を刺激する作用があっても、ドーパミンによる強い刺激を置き換えることで、結果的に刺激を弱めることができます。
これが部分アゴニストの重要な特徴です。
リスペリドンのようなD2受容体遮断薬は、受容体の働きをブロックします。
一方、アリピプラゾールは弱い刺激を残しながら、過剰な刺激を抑えるのです。
したがって、ドーパミンが過剰に働いている状況では、実質的にアンタゴニストに近い働きをすることになります。
これによって、陽性症状の改善が期待できるわけです。
なぜ陰性症状には効果を実感しにくいのか
では、陰性症状について考えてみましょう。
先ほど、前頭前野ではドーパミンの働きが十分ではないという説明をしました。
ここでは仮に、ドーパミンによる刺激が「0」だったとしましょう。
本当は「5」くらいの刺激が必要なのに、「0」しかない状態です。
ここにアリピプラゾールが結合するとどうなるでしょうか。
アリピプラゾールは部分アゴニストですから、仮に「2」の刺激を与えることができます。
つまり、0だった刺激が2になるわけです。
これは、理論的にはドーパミンの働きを補う方向の作用です。
一方、受容体遮断薬の場合には、わずかに残っているドーパミンの刺激まで抑えてしまう可能性があります。
例えば、刺激が0.1しかないところで、それをさらにブロックしてしまうようなイメージです。
アリピプラゾールなら、そうした状況で一定の刺激を残すことができます。
ただし、ここで重要なのは、効果の大きさです。
陽性症状の場合には、10あった刺激が2になるという大きな変化でした。
ところが陰性症状の場合には、0だった刺激が2になるという変化にとどまります。
10から2への変化と、0から2への変化。
もちろん、これは実際の脳内で測定した数字ではありませんが、患者さんが効果を実感する際の違いを説明するためには、分かりやすい例えだと思います。
アリピプラゾールは、薬理学的にはドーパミン刺激を適度に調節する作用を持っています。しかし、そのことが陰性症状の明確な改善につながるとは限りません。
実際、陰性症状に対する薬物療法の効果には限界があります。意欲低下には抑うつや薬の副作用などが関係する場合もあり、単純にドーパミンの刺激を増やせば解決するものではありません。
ですから、アリピプラゾールを使用していても、陽性症状は良くなったのに陰性症状はあまり改善しない、ということは十分に起こり得るのです。
患者さんの実感と薬理学的な説明が一致した
今回の患者さんは、まさにそのような経験をされていました。
「幻覚や妄想は良くなった。でも、やる気が出ないことについては、あまり変化を感じない」
この訴えは、アリピプラゾールの作用機序から考えても理解できるものでした。
そこで私は、先ほどの数字を使って説明しました。
陽性症状については、過剰だった刺激を大きく弱めることで改善が期待できる。
一方、陰性症状については、部分アゴニストという特徴が理論的には有利に働く可能性があるものの、実際の改善効果は限定的な場合がある。
だから、陽性症状ほど陰性症状への効果を実感できなくても、不思議ではないんですよ、とお伝えしたのです。
すると、その患者さんは非常に納得してくださいました。
「なるほど。だから陽性症状には効いている感じがするのに、陰性症状にはあまり効いている感じがしないんですね」
このように、ご自身の体験と医学的な説明が結びつくことで、薬に対する理解が深まったのだと思います。
そして、今後も治療を続ける必要性について、前向きに受け止めてくださいました。
精神科治療では、患者さん自身が納得することが重要
私は、精神科医として、このような瞬間をとても大切にしています。
精神科の治療では、患者さんが薬の必要性を理解し、納得して服用できることが理想です。
もちろん、すべての患者さんが最初から病気や治療の必要性を理解できるわけではありません。
統合失調症では、病識が十分に得られないこともあります。自分が病気であることや、薬物療法が必要であることを受け入れられない方もいらっしゃいます。
また、薬の効果よりも眠気や体の動かしにくさなどの副作用を強く感じる方もいます。
実際に眠気にはヒスタミンH1受容体への作用などが関係しますし、体の動かしにくさにはドーパミン受容体への作用が関係することもあります。
患者さんによって、薬の何を強く実感するのかは違うわけです。
だからこそ、精神科医は患者さんの訴えを丁寧に聞き取らなければいけません。
薬理学的にどのような作用が期待できるのか。そして、実際に患者さんが何を感じているのか。
この二つを照らし合わせながら、治療について説明していくことが重要です。
私は日頃から、患者さんに疾病教育を行っています。
統合失調症とはどのような病気なのか。なぜ薬が必要なのか。薬にはどのような効果や副作用があるのか。
一つ一つ、できるだけ分かりやすく説明しています。
ただ、説明したからといって、必ずしも患者さんが納得しているとは限りません。
頭では理解していても、どこか腑に落ちないということもあるでしょう。
しかし、今回のように患者さん自身の疑問を出発点として説明すると、その方の経験と医学的な知識が結びつくことがあります。
そして、「なるほど、そういうことだったのか」と納得していただける。
その結果、ご本人が主体的に治療を続けようと思ってくださる。
これは精神科医として、非常にうれしいことです。
薬をただ飲んでもらうのではなく、なぜ飲む必要があるのかを理解していただく。
私は、こうした過程が治療を長く続けるうえでも重要だと考えています。
最後に
今日は、統合失調症の陰性症状とアリピプラゾールについて、患者さんとの実際のやり取りをもとにお話ししました。
アリピプラゾールはドーパミンD2受容体の部分アゴニストとして、ドーパミンの働きを調節する薬です。
過剰なドーパミン刺激を抑えることで、幻覚や妄想などの陽性症状に効果を発揮します。
一方、陰性症状については、その作用機序から一定の効果が期待されるものの、実際には十分な改善を実感できない方も少なくありません。
だからこそ、薬の限界も含めて患者さんに説明し、納得して治療を続けていただくことが大切なのだと思います。
最後に、私の著書『私のなかの希死念慮ちゃん ~精神科医が教える「死にたい」との付き合い方~』をご紹介させてください。
死にたいと感じる背景には、さまざまな事情があります。本書では、そうした気持ちとどのように向き合えばよいのか、精神医学の知識がない方にも理解していただけるように書きました。
専門書ではなく、一般の方に向けた入門書です。興味のある方は、ぜひ手に取っていただければと思います。
精神科医の芳賀高浩でした。
毎日19時に動画を公開しています。
それでは皆さん、また明日19時にお会いしましょう。さようなら。