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統合失調症の方の身だしなみはなぜ乱れがちなのか、精神科医が解説します。

精神科医 芳賀高浩

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統合失調症の方の身だしなみはなぜ乱れがちなのか、精神科医が解説します。

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精神科医 芳賀高浩
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こんばんは。精神科医の芳賀高浩です。 今日は、患者さんからいただいた質問についてお話ししたいと思います。 「統合失調症になると、なぜ身だしなみが乱れがちになるんですか?」 非常にいい質問ですよね。 私は患者さんから質問をいただくのが好きなんです。というのも、患者さんからの質問は、医師にとって知恵を絞る機会になるからです。 医学的なエビデンスがあって、すでにわかっていることもありますが、実際にはまだ十分に解明されていないこともあります。 患者さんは、自分を診療している医師について、自分の病気のことなら何でも知っているのではないかと思ってくださっていることがあります。 もちろん、医師だからといって何でも知っているわけではありません。それでも、そうした期待を寄せていただけることはありがたいですし、できる限りお答えしていきたいと思っています。 そこで今回は、統合失調症の方の身だしなみがなぜ乱れやすくなるのか、ドーパミンと脳機能の観点から解説していきたいと思います。 身だしなみの乱れには陽性症状と陰性症状が関係する 統合失調症には、大きく分けて陽性症状と陰性症状があります。 陽性症状には幻覚や妄想などがあり、陰性症状には意欲の低下や自発性の低下などがあります。 身だしなみの乱れについても、こうした症状や認知機能の問題から説明できる部分があります。 まず、陽性症状に関連する「サリエンス」という概念からお話ししましょう。 サリエンスとは、簡単に言えば、物事に対する重要性や意味の重みづけのことです。 人間は日常生活の中で、さまざまな出来事について、これは重要だとか、これはそれほど重要ではないといった判断をしています。 そして、その重要性の判断には、脳内のドーパミンが関係しています。 例えば、明日、大切な会議があるとしましょう。 その会議が自分にとって重要だと認識されれば、緊張したり、準備をしようと思ったりします。 一方、それほど重要ではないと感じている会議であれば、あまり緊張しないかもしれません。 もちろん、重要性の判断がすべてドーパミンだけで決まるわけではありませんが、ドーパミンは、こうした情報の重要性を学習したり判断したりする仕組みに深く関係しています。 統合失調症では、このサリエンスの働きに異常が生じるという仮説があります。 本来であれば重要ではない出来事に過剰な意味を感じたり、逆に重要なことに十分な注意が向かなかったりすることがあるわけです。 これを「異常サリエンス」と呼びます。 例えば、何気ない他人の視線や発言に特別な意味を感じてしまうことがあります。こうした現象は、統合失調症の妄想形成を説明するモデルの一つとして考えられています。 身だしなみにもサリエンスが関係している では、これが身だしなみとどう関係しているのでしょうか。 身だしなみにはTPOがありますよね。 例えば、近所のコンビニエンスストアに行くときと、重要な会議に出席するときとでは、服装や身だしなみにかける手間が違うと思います。 近所のコンビニに行くだけなら、わざわざスーツを着たり、念入りに化粧をしたりする必要はないでしょう。 一方、大切な人と会うときや重要な仕事があるときには、普段以上に身だしなみを整えようとするかもしれません。 つまり、人間は状況に応じて、身だしなみにどれくらい注意を向けるべきか、重みづけをしているわけです。 ところが、この重みづけがうまく働かなくなると、場面に応じた身だしなみの調整が難しくなる可能性があります。 例えば、眉毛や鼻毛が伸びていても、それを整える必要性をあまり感じない方がいらっしゃいます。 逆に、非常に派手な服装をしたり、必要以上に念入りな化粧をしたりする方もいらっしゃいます。 私の臨床経験でも、まるで昭和の授業参観に出席するような格好で、普段から生活されている方を見かけることがあります。 コンビニに行くだけなのに、ドレスのような服装をしていたり、歌舞伎役者かと思うほど濃い化粧をされていたりする方もいます。 もちろん、派手な服装をしているから統合失調症だという話ではありませんし、身だしなみには個人の好みや文化的な違いもあります。 ただ、普段のその人の状態と比較して、状況に合わない服装や化粧が目立つようになった場合には、病状との関係を考えることがあります。 こうした現象について、サリエンスの異常という観点から説明できる可能性があるわけです。 ただし、身だしなみの乱れが異常サリエンスによって直接生じると証明されているわけではありません。あくまで病態を理解するための一つの考え方です。 陰性症状では遂行機能の低下が問題になる もう一つ重要なのが、陰性症状や認知機能障害との関係です。 統合失調症では、前頭前野を中心とした脳機能の変化が関係すると考えられています。 前頭前野は、物事を計画したり、順序立てて行動したり、決められた時間内に作業を終わらせたりする機能に関係しています。 こうした能力を「遂行機能」と呼びます。 例えば、ADHDの方にも遂行機能の問題がみられることがあります。 ADHDではドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が関係すると考えられていますが、統合失調症でも前頭前野の神経機能の変化や遂行機能の障害がみられることがあります。 もちろん、ADHDと統合失調症は別の疾患ですが、日常生活における困難には共通する部分もあるんですね。 では、身だしなみを整えることを考えてみましょう。 例えば、お風呂に入るという行動一つを取っても、実際にはさまざまな手順が必要です。 着替えを用意して、お風呂を準備して、体を洗い、髪を洗い、タオルで体を拭き、ドライヤーで髪を乾かす。 そして、着替えて、必要があれば髪を整えたり、化粧をしたりする。 こうして考えると、身だしなみを整えるというのは、実は非常に複雑な作業なんです。 しかも、出かける時間に間に合うように、これらの作業を終わらせなければいけません。 ところが、遂行機能が低下していると、身だしなみを整えたいと思っていても、作業の順序を考えたり、時間内に終わらせたりすることが難しくなります。 例えば、朝9時に出かける予定があったとして、きちんと身だしなみを整えたいという気持ちはある。 しかし、準備を始めることができなかったり、途中で作業が止まってしまったりして、結局、身だしなみが整わないまま出かけてしまう。 あるいは、準備が終わらず、外出そのものができなくなってしまうこともあります。 つまり、身だしなみを整える必要性を感じにくいという問題と、必要性は理解していても実際の行動を完了できないという問題は、分けて考える必要があるわけです。 また、陰性症状による意欲の低下や抑うつ症状、薬の副作用、身体疾患などが重なっている場合もあります。 統合失調症だから必ず身だしなみが乱れるということではありませんし、一つの原因だけですべてを説明できるものでもありません。 身だしなみを整えるには、どうすればよいのか? では、こうした方々に対して、どのような支援をすればよいのでしょうか。 私は、生活習慣を少しずつ整えていくことが非常に大切だと考えています。 例えば、毎日歯を磨く。定期的に入浴する。着替える。髪を整える。 こうした行動を習慣化していくわけです。 重要なのは、最初から高い目標を設定しないことです。 例えば、長い間お風呂に入れていなかった方に対して、いきなり毎日入浴しましょうと言っても、なかなか実行できないことがあります。 そういう場合には、まず顔を洗う、着替える、あるいは短時間だけシャワーを浴びるといった、小さな目標から始めることが大切です。 そして、できたことを評価して、成功体験を積み重ねていく。 ある程度習慣になったところで、少しずつ目標を引き上げていくわけです。 こうした考え方は「行動活性化」とも関連しています。 特にうつ病では、意欲が回復するのを待つだけではなく、実行できる範囲で活動を増やし、その経験を通じて生活の改善を目指すという方法が用いられます。 統合失調症でも、本人の状態に合わせて小さな行動を習慣化することは、生活機能の回復を支える重要な方法になります。 もちろん、薬物療法によって症状が改善し、身だしなみも整ってくることはあります。 ただ、薬を飲んだからといって、すべての生活習慣が自動的に改善するわけではありません。 必要に応じて薬物療法を調整しながら、日々の生活の中で、実際にできる行動を一つずつ増やしていく必要があるんですね。 訪問看護師の役割は非常に大きい そこで重要になるのが、訪問看護師さんをはじめとする支援者の存在です。 訪問看護師さんは、実際に患者さんの自宅に入り、日常生活の様子を確認できます。 歯磨きができているか、入浴できているか、着替えられているか、生活リズムが整っているか。 こうしたことを一つずつ確認しながら、患者さんが実行できる目標を設定し、少しずつ活動を増やしていくことができます。 私は、こうした生活に密着した支援こそ、訪問看護師さんの大きな強みだと思っています。 ただ励ますだけではなく、何ができていて、何が難しいのかを具体的に把握する。 そして、患者さんが無理なく取り組める方法を一緒に考えていく。 身だしなみが整わないからといって、単純に本人の怠慢や努力不足と考えるのではなく、その背景にある症状や認知機能の問題を理解することが大切なんです。 こうした支援をどのように組み立てるかが、精神科医や訪問看護師をはじめとした支援者の腕の見せどころだと思っています。 ということで、今日は「統合失調症の方はなぜ身だしなみが乱れやすいのか」という患者さんからの質問について解説しました。