「おい、カートのじいさん。客の車に傷をつけておいて、ただで済むと思うなよ」雨の地面に私は黙って膝をついた。株の三十五パーセントを持つ隠れた大株主の私が扉を開けると、差し出された社長の手が宙で止まった
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「おい、カートのじいさん。客の車に傷をつけておいて、ただで済むと思うなよ」雨の地面に私は黙って膝をついた。株の三十五パーセントを持つ隠れた大株主の私が扉を開けると、差し出された社長の手が宙で止まった
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県の北の小さな町で、駅前の老舗のスーパーの駐車場に立ち、カートを集めて二年。六十四歳の私は、亡くなった先代の娘婿の新しい社長に「カートのじいさん」と呼ばれています。冷たい雨の日には客の車の傷を押しつけられて膝をつかされ、バケツの水をかけられ、給料からは身に覚えのない修理代まで引かれました。新しい社長は朝礼で「七つの店も、働く人も、そのまま残ります。」と言いながら、陰で町の三つの店を閉じる身売りを進めています。年寄りが休むベンチは入り口から消え、私をかばったパートの娘は、働く日を減らされました。そして三月十五日、身売りを決める株主の集まりの朝、私は紺の背広に着替えて、二階の会議室の扉に手をかけます。
新しい社長も店長も、まだ知りません。「カートのじいさん」と呼んできた私が、三十年前、亡くなった父の田んぼを売って会社の株の三十五パーセントを引き受けた、だれにも名乗らない大株主だったことを。一話完結の長編朗読劇です(約116分)。寝る前や作業のお供にどうぞ。
■ 章の目安
00:00 第1章 カートのじいさん
02:16 第2章 喪服の駐車場
04:36 第3章 店の者の目で
06:48 第4章 駐車場の一年
08:55 第5章 三十年前の春
10:56 第6章 父の田んぼ
13:05 第7章 新しい社長の朝礼
15:15 第8章 東京から回ってくる封筒
17:19 第9章 店も人もそのまま
19:24 第10章 一号店のレジ
21:26 第11章 片づけられたベンチ
23:28 第12章 豆腐屋の話
25:34 第13章 川向こうの店
27:39 第14章 株だけでは守れない
29:38 第15章 同じ苗字
31:39 第16章 冷たい雨
33:56 第17章 バケツの水
36:02 第18章 減らされたシフト
38:03 第19章 妻の手
40:16 第20章 境の杭
42:16 第21章 十二万円
44:20 第22章 来週ね
46:27 第23章 三月三十一日
48:34 第24章 甘えないで
50:38 第25章 巻き尺
52:47 第26章 宛名の名前
54:51 第27章 引き出しの委任状
56:59 第28章 菓子折り
59:02 第29章 来なけりゃ通る
1:01:05 第30章 前の晩
1:03:08 第31章 東京の大株主を見張れ
1:05:16 第32章 株主様の車
1:07:25 第33章 ロッカーの背広
1:09:24 第34章 扉が開く
1:11:34 第35章 府中の住所
1:13:39 第36章 取締役会で一つずつ
1:15:55 第37章 全部そのまま
1:18:03 第38章 傘の下
1:20:08 第39章 一号店も
1:22:07 第40章 駅前の土地
1:24:11 第41章 二十八人
1:26:20 第42章 店長の一言
1:28:29 第43章 本音
1:30:26 第44章 レジの台
1:32:21 第45章 売らせません
1:34:30 第46章 乾いた床
1:36:50 第47章 三十年前の約束
1:38:53 第48章 店の上着
1:40:54 第49章 甘えていたのは
1:43:09 第50章 雨の駐車場
1:45:30 第51章 来なくなったのは
1:47:37 第52章 戻ったベンチ
1:49:37 第53章 坂の上の列
1:51:43 第54章 墓の前で
1:53:56 第55章 五月一日
■ このチャンネルについて
「ZESTノベル」は、我慢を強いられた主人公が静かに逆転する物語を、一話まるごと長編の朗読劇でお届けするチャンネルです。
・登場人物・団体はすべて架空です
・声:VOICEVOX:青山龍星
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