1500年前朝鮮半島南西部 小さな壺に詰まった9人の家族の正体
日本及び東アジアの古代史を科学する
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1500年前朝鮮半島南西部 小さな壺に詰まった9人の家族の正体
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本資料は、韓国・堂北里(タンブンニ)遺跡の甕棺(かめかん)から出土した、三国時代(5〜7世紀)の個体群に関する考古遺伝学的研究(Lee et al., 2022)の結果をまとめたものである。
本研究の最大の成果は、単一の小型甕棺に二次埋葬されていた複数個体が、夫婦とその子供、および父方・母方双方の親族を含む「拡大家族」であることをゲノム規模データによって実証した点にある。これは、当時の社会構造が特定の性別に偏らない柔軟な家族形態を有していた可能性を示唆している。また、これら古代個体群の遺伝的特性は現代朝鮮人と極めて類似しており、現代朝鮮人の遺伝的起源が少なくとも1500年前の朝鮮半島にまで遡ることが確認された。
1. 堂北里遺跡と甕棺埋葬の考古学的背景
堂北里遺跡は、韓国西部沿岸の群山(クンサン)市に位置する、三国時代(6世紀中盤頃)の遺跡である。
埋葬状況: 調査では21基の埋葬(石棺墓16基、石室墓4基、甕棺墓1基)が発見された。
異例の埋葬形態: 通常、朝鮮半島の小型甕棺は単一個体の火葬後の二次埋葬に用いられるが、本遺跡の甕棺からは少なくとも9個体の骨格遺骸が回収された。
二次埋葬の特定: 骨格要素に特定の配置パターンはなく、個体が層に分かれていないことから、長期間の連続埋葬ではなく、ほぼ同時に二次埋葬として集められたと考えられている。
社会層の推定: この様式の小型甕棺は、エリート層ではなく「庶民」と関連していると推測される。
2. ゲノム解析の対象と手法
出土した9個体のうち、保存状態の良い6個体について124万ヶ所の一塩基多型(SNP)を対象としたゲノム解析が実施された。
解析対象個体の一覧
個体番号
推定年齢
性別
Y染色体ハプログループ
mtDNAハプログループ
1号 (GUC001)
成人 (50代)
女性(解析では息子と判明)
Q1 (L472)
D4c1b1
2号 (GUC002)
36~50歳
男性
Q1a1a (M120)
D4b2b1
3号 (GUC003)
21~35歳
男性
Q1a (F1251)
-
4号 (GUC004)
年齢不明
女性
-
D4c1b1 (推定)
6号 (GUC005)
21~35歳
おそらく女性
O1b2a1a2a1a (CTS7620)
D4c1b1
9号 (GUC007)
15~18歳
未成年
-
D4c1b1
※5号、7号、8号はDNA保存状態などの理由により詳細なゲノム分析から除外された。
3. 解析結果:単一甕棺内の家族関係の復元
ゲノム規模データを用いた遺伝的近縁性の推定により、埋葬された個体たちが密接な拡大家族を形成していることが明らかになった。
推定された家系構造
解析された6個体間で、6組の一親等、2組の二親等、1組の三親等の関係が確認された。
核家族の存在: 2号(父)と4号(母)の夫婦を中心とし、1号(息子)と9号(娘)という2人の子供を含む4人家族が特定された。
母方の親族: 6号(男性)は4号(母)の一親等の親族であり、1号・9号とは共通のミトコンドリアDNAを有することから、4号の息子(異父兄弟)である可能性が高い。
父方の親族: 3号は2号(父)と同じY染色体ハプログループ(Q1a)を共有しており、三親等程度の父系親族と推定される。
近親婚の不在: ROH(同型接合連続領域)の分析により、これらの個体が密接な親族同士(近親)の両親から生まれた子供ではないことが確認された。
社会構造への示唆
父方と母方双方の親族が核家族と共に同一の甕棺に埋葬されている事実は、当時の家族構造において性別(ジェンダー)による偏りが限定的であった可能性を示唆している。
4. 解析結果:現代朝鮮人との遺伝的連続性
本研究は、古代朝鮮半島人の遺伝的特性を現代人および周辺の古代人口集団と比較した。
高い遺伝的均一性: 主成分分析(PCA)において、堂北里の6個体は相互に近く、かつ現代朝鮮人と重なる位置に投影された。
長期的な継続性: f3統計およびf4統計を用いた検証により、堂北里個体群は世界中のどの集団よりも現代朝鮮人と高い遺伝的類似性を示すことが判明した。これにより、朝鮮半島における現代人の遺伝的起源が、少なくとも1500年前には確立されていたことが示された。
縄文関連祖先系統の寄与: 本研究のモデル(WLR_BAを用いたモデル)では、堂北里個体群および現代朝鮮人において縄文関連祖先系統の統計的に有意な寄与は検出されなかった。ただし、北方代理集団の選択によっては少量の寄与が検出される場合もあり、周辺地域との複雑なつながりを示唆している。
5. 歴史的考察と結論
堂北里遺跡のゲノム解析は、文献史料や状況証拠に頼っていた古代の家族・社会構造の復元に、客観的な科学的根拠を与えた。
庶民層の可視化: 本研究の対象は庶民階級の埋葬とされる甕棺であり、これまでデータの少なかった当時の一般人口集団の遺伝的特性を明らかにした。
国際的なつながり: 堂北里個体群自体は現代朝鮮人と極めて近いものの、最近の研究では日本列島からの縄文祖先系統を持つ中世初期個体や、朝鮮半島から日本列島(古墳時代)への継続的な遺伝子流動が報告されており、原史時代のアジア東部における活発な人々の移動が裏付けられている。
結論: 堂北里遺跡の甕棺は、血縁関係に基づいた家族が死後も共に葬られる「家族墓」としての機能を果たしていた。この知見は、東アジアにおける古代の埋葬慣行と社会組織の理解を深める重要な一歩となる。