潮騒のアンセム(Shore Anthem)‐surreal gaiden feat いこのべー
surreal project
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潮騒のアンセム(Shore Anthem)‐surreal gaiden feat いこのべー
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『潮騒のアンセム(Shore Anthem)』
夜明け前の海は、とても静かです。
汐見遥(しおみ・はるか)さんは二十二歳。フィールド・レコーディングの技師として、波打ち際や山の尾根にマイクを立て、人の耳には届きにくい小さな音を集めて歩いています。
彼女が「好き」と口にするのは、いつも人のことではなく、そうした音たちでした。
人と言葉には、少しだけ傷ついた経験があります。
だから遥さんは、音を探ることに静かに夢中になりました。
集めることは、傷つかないための距離の取り方でもあったのです。
ある秋、海沿いが保全区域に指定され、マイクを置ける場所は狭くなっていきました。
それでも彼女は、線の外側から遠くの波にマイクを向け続けます。
そんな夜、ひとつの依頼が届きました。
かつて一緒に音楽を作っていた人が、遥さんの録った波の音をテレビで使いたいと言ってきたのです。
「きれいに整えて、使いやすくする」——その言葉に、遥さんは立ち止まりました。
渡したくない。けれど、渡さないためには、自分の音を持っていなければなりません。
彼女が集めてきたのは、いつも外の音でした。自分の音は、まだひとつも無かったのです。
機材で組んでも、何度作り直してもしっくりきません。
足りないものの正体に気づいたとき、遥さんは息を止めました。足りないのは、自分の声でした。
声を出すことは、彼女にとっていちばん遠い場所でした。
夜明け前、波打ち際にマイクとスピーカーを並べます。
すぐには歌えません。まず小さくハミング。二度目は、もう少し大きな声で。潮騒に混ざって、自分の声が返ってきます。
はじめは甘く静かなバラードでしたが、夜が明けるにつれ、声は自然に大きくなっていきました。
歌い終えたとき、波はいつもどおり打ち寄せていました。
誰かを救ったわけでも、有名になったわけでもありません。
それでも、自分の「好き」を探り、自分の声で創り上げたその一曲は、確かにそこにありました。
帰り道、濡れた砂の上で遥さんは小さく笑います。
今度は、山のほうへ行ってみよう。まだ聴いたことのない音が、きっとあるから。
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▼ 献呈
この一曲を、いこのべ 様(@ikonobe.do)にお贈りします。
「毎日、好きなヒロインを投稿」——その言葉のとおりに、日々ヒロインを描き続けてこられた方と、この物語を作れて嬉しく思います。
「好き」の対象は、人とは限らない。
波の残響だったり、尾根を抜ける風だったり、そういう小さな音だったりする。
だからこの曲は、人ではなく音に「好き」と言い続けてきた女の子にしました。誰にも気づかれない音を探るうちに、自分の声を出すことだけが遠い場所になっていた——そんな遥を、いこのべ様の描かれるヒロインたちのように、まっすぐ前を向く姿へ連れていきたかったのです。
月光の下、白いドレスで両腕を広げて海へ踏み出すあの一瞬。髪をなびかせ、目を閉じて夜空を仰ぐ姿は、この物語のいちばん高い音そのものです。ときどき覗かせてくださるミリタリーの凛々しさも、遥が線の外側で膝をつく姿に重ねさせていただきました。
今夜もどこかで、好きなヒロインが一枚増えていく。その積み重ねと同じ熱量で、この曲を届けたいと思います。
三つの言葉:「好き」/「探る」/「創る」
2026年10月9日 takaswi mizuha
▼ クレジット
シナリオ・作詞・楽曲:takaswi mizuha
ジャケット:いこのべ(@ikonobe.do)
公開:surreal project
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