1秒の正体|あなたの一秒は、二百年前の地球で決まっている
学びたい大人のための大学
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1秒の正体|あなたの一秒は、二百年前の地球で決まっている
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時計は、時間を測っていません。同じことが何回起きたかを、数えているだけです。だから正確な時計を作るとは、細かい目盛りを刻むことではなく、絶対に変わらない繰り返しを探すことでした。この動画は、その四百年の探しものの話です。
脈は走れば速くなる。振り子は置く場所で変わる。水晶も歳をとる。人類はついに、個体差が無く、すり減らず、宇宙のどこでも同じもの——原子にたどり着きました。1967年、一秒は「セシウム133原子の、二つの超微細準位間の遷移に対応する放射の 9 192 631 770 周期の継続時間」になります。定義の文章に、地球も太陽も一年も一日も出てきません。
ではなぜ、9 192 631 770 という半端な数なのか。単位を作り替えるときは、中身は変えても長さは変えてはいけないからです。1955年から三年かけて、米海軍天文台のマーコウィッツと英国立物理学研究所のエッセンたちが、セシウムの周波数を「暦表秒」で実測しました。その暦表秒の土台はニューカムの太陽表で、1750年から1892年の観測でできています。一日の長さがちょうど86400秒だったのは、近年の研究ではおよそ1820年ごろと推定されています。つまり、あなたのスマートフォンが刻む一秒は、およそ二百年前の地球が一回まわる速さで決まっている。原子は新しい一秒を作ったのではなく、昔の地球の自転を保存したのです。
さらに、世界の公式時刻を刻んでいる時計は、地球上に一台もありません。約85の研究所から450台あまりの原子時計のデータが集まり、重みつきの平均が計算され、「サーキュラーT」として月に一度、あとから確定します。私たちが見ているのは、出口調査にあたります。
そして光格子時計。精度が上がると、同じ設計の二台が違う速さで進みはじめました。違っていたのは時計ではなく、置いてある高さでした。2010年には33センチ、2020年には東京スカイツリーの450メートルで測られています。時刻を合わせるために空を見上げていた人類が、いまは時計で地面の高さを測っています。
同じ原子が、置かれた場所で違う速さで鳴る。つまり「どこでも同じ一秒」は存在しません。だから人類は、ジオイドの上で数えた一秒を世界の一秒とする、という約束を足しました。一秒とは、自然が決めた長さではなく、何を数えるか・どこで数えるか・誰と持ち寄るかまで含めた、人類の約束です。
最後に、いま起きていることを。地球は2020年ごろから速くなっていて、2024年7月5日は観測史上いちばん短い一日でした。国際度量衡局の決議案は、連続した世界標準時を2027年5月20日から発効させ、ずれの上限を3600秒(1時間)にすると書いています。ただしこれはまだ投票前で、2026年10月に決まります。そして5月20日は、1875年にメートル条約が調印された日と同じ日付です。
次の一秒をどの原子で決めるかは、まだ決まっていません。
■ 章
0:00 導入
0:44 第1章 脈で数えた
5:50 第2章 海の上の一秒
11:04 第3章 ものさしが揺れていた
15:36 第4章 全部、同じもの
20:48 第5章 一八二〇年の地球
25:48 第6章 どこにも無い時計
30:41 第7章 三十三センチ
37:25 第8章 二〇二七年五月二十日
43:31 第9章 まだ決まっていない
48:39 おわりに
■ この動画で分かること
・時計は時間を測っていない。「同じことが何回起きたか」を数えているだけ
・正確さとは目盛りの細かさではなく、目盛りの揃い方
・繰り返しが速いほど時間は細かく切れる(振り子1回 → セシウム91.9億回 → 光400兆回)
・時間のずれは、そのまま場所のずれ。赤道では一秒=およそ460メートル
・ハリソンの四号機は1761年のジャマイカ航海81日で、遅れ5.1秒
・1930年代、水晶時計のほうが安定してしまい、地球の自転の揺れが見つかった
・暦表秒(1960)は正しい定義だったが、一年を測るのに一年かかるので七年しかもたなかった
・9 192 631 770 が半端なのは、暦表秒に「合わせにいった」実測値だから(1958)
・その暦表秒の土台は1750〜1892年の天文観測。一日が86400秒だったのは、およそ1820年ごろ
・世界標準時を刻む時計は一台も無い。約85機関・450台超の加重平均を、翌月に紙の上で確定する
・安定さは多数決で作り、正しさは十数台の一次標準が直す、という二段構え
・光は速すぎて数えられなかった。光周波数コムが「数えられる速さ」まで割り算した
・マジック波長(2001)=上下の状態を同じだけずらす波長を選び、ずれを打ち消す
・2010年、33センチ持ち上げただけで光時計の進み方が変わることが測定された
・2020年、東京スカイツリーで可搬型光格子時計が450メートルの差を捉えた
・「どこでも同じ一秒」は存在しない。だから標準時はジオイド上の一秒と決めてある
・うるう秒は1972年から27回。最後は2016年末。GPS時刻はUTCより18秒進んでいる
・地球は速くなっており、2024年7月5日が観測史上最短(約1.66ミリ秒短い)
・負のうるう秒の備えは「2000年問題への備えと同程度」と見積もられている
・決議案:連続UTCは2027年5月20日発効/ずれの上限は3600秒 ★2026年10月に投票
・最良の光時計は現行定義を最大100倍上回るが、どの原子にするかの合意はまだ無い
・秒に頼らない定義を持つSI基本単位はモルだけ
■ 出典・参考
・BIPM「Draft Resolutions of the 28th CGPM (2026)」Draft Resolution B / C / D
・BIPM Resolution 4・5 of the 27th CGPM (2022)
・Markowitz, Hall, Essen & Parry, Phys. Rev. Lett. (1958)
・Chou, Hume, Rosenband & Wineland, Science 329, 1630 (2010)
・Takamoto et al.(香取研), Nature Photonics (2020)
・Agnew, Nature (2024)/BIPM Circular T/NIST・PTB・IERS の公開資料
■ 音楽
Origami / Scott Buckley(CC BY 4.0)